軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
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(――何を動揺しているんだ、俺は。うぶな子供じゃあるまいし)
シーラの部屋を出て大理石の廊下にカツカツとブーツのかかとを響かせながら、アドルフは自分の口もとを気まずそうに手で押さえて歩いた。
途中で警備に立っている衛兵の前を通りすぎたが、思わず顔を逸らせてしまう。なぜなら、自分でもみっともないほど顔が赤くなっているのが分かっているからだ。こんな表情は、誰にも見せたくない。
シーラのことを女性として見るのは難しいと思っていた。年若い頃からアドルフは社交界で散々大人の色気を振りまくご婦人方に囲まれていたのだ。まるっきり幼く見えるシーラに性的な魅力を感じないのは、無理もないだろう。
ただ、共に過ごすうちに無邪気な彼女に愛着が湧いたのか、それとも彼女の哀れな境遇に同情したのか。いつしかアドルフはシーラに対して強い庇護欲を覚えるようになっていた。
自分がどれほど哀れかも気づかぬ、愚かで無垢な女。それはまるで迷子のカナリアのようだ。己がどれほど美しいかも知らず、ただ生きるために森を飛び、ある日突然黄金の鳥かごに閉じ込められて自由を奪われる。
それなのにカナリアは嬉しそうに歌う。権力も陰謀も憎しみも悲しみも、まだ何も知らないまま、透き通った声で。
無垢で哀れで、ふれれば壊れてしまいそうに小さなシーラを、アドルフはいつからか己の手で守り抜きたいと強く思うようになっていた。それが激しい独占欲と背中合わせになっていることにも、薄々気づきながら。