軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
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クーシーの怪我がよくなり、シーラの部屋で再び生活できるようになったのは、それから数日後のことだった。
「クーシー、よかった! これからもずっと一緒よ」
毎日犬舎に会いにはいっていたが、やはり共にそばで暮らせるのは嬉しい。狩猟犬の飼育員に連れられて部屋にやって来たクーシーに、シーラは抱きついて頬ずりをした。クーシーも嬉しさを噛みしめているかのように、キュンキュンと甘えた声を出し尻尾を振っている。
「本当に仲がおよろしいのですね」
ふたりの相思相愛ぶりに飼育員が目を細めて言えば、シーラは得意そうに「もちろんよ!」と笑って見せた。
クーシーとの付き合いも十年になる。おそらく貴族の狩猟に連れられてこられたのだが、はぐれてしまったのだろう。森で迷い空腹で衰弱しきっているところを、シーラが見つけて助けたのだ。
訓練された狩猟犬はそう易々と見知らぬ者に懐いたりはしないが、さすがに命の恩人は違ったらしい。それとも、クーシーにも何か思うことがあったのだろうか。とにかく彼はシーラにとてもよく懐いた。
それからの十年間はまるで姉弟か双子のようだった。クーシーは常にシーラに寄り添い、自分のできることで彼女を助け、共に喜びを分かち合い、眠るときは身を寄せ合ってぬくもりと安心を共有して寝た。
外部からほぼ遮断されたといってもいい環境の中で、クーシーの存在はどれほど大きかったことか。
そしてそれは、ワールベークに来た今でも変わらない。シーラにとってクーシーは魂を別けた双子であり、もっとも身近な友人でもあるのだ。
だからこそ今回、クーシーが大怪我をしたことはとてもショックだったし、こうして元気になって戻ってきてくれた姿が心から嬉しい。
「ああ、嬉しい。クーシー、今日は一緒に寝ましょうね。それから果樹園のお散歩もしましょう。でももう森は駄目よ。柵には近づかないからね」