軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
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モンテ山脈を超えていたアドルフ達は途中、道が雪崩で塞がれていて足止めを食らっていたのだという。至急伝令をもうひとつの軍に送ったが、その伝令も雪どけの川の増水などで渡渉が不可能となり、連絡が届かなかったらしい。
予定より大幅に遅れたが死者もなく山を無事に超えられたアドルフ達は、作戦を決行することにした。
ラーゴ砦は南イルジアに於ける敵軍の重要な要塞だ。その堅牢さに一目置かれているが、気づかぬうちに陣を敷かれ、挟み撃ちで砲撃を浴びせられてはひとたまりもない。
戦いは帝国軍の圧勝だった。連勝に次ぐ連勝を重ね、最後に追い詰めた敵軍を砦ごと陥落させ、ついに南イルジアでの戦いはアドルフ率いる帝国軍の勝利で幕を閉じたのである。
そうして帝国は和平協定に応じ南イルジアを敵国から解放し、南イルジア全土の領有権を手中に収めたのであった。
圧勝を収めたアドルフ軍が敵の軍旗と賠償金と共に帰国したのは、帝国にももう春の花が咲き乱れる頃。
勇気と指導力に溢れる軍神皇帝を国民が熱狂的に出迎える中、アドルフはついに三ヵ月半ぶりにシーラと再会する。
宮殿前広場で行われた凱旋式典に、今度はシーラも参加することとなった。アドルフが出発してから彼の無事を信じて、ずっと式典に出席する練習をしてきたのだ。
皇帝の許可なく公式の、しかも大勢の民の目にふれる場に出すことを反対する廷臣らもいたが、健気に、そして気丈に待ち続けたシーラを評価する者の方が多かった結果だ。
その日、まだ日も昇りきらぬうちからシーラは準備に追われた。湯浴みで身を清め、式典用のトレーンがついた絹のエンパイアドレスに着替え、髪を結われた。正装をするのはこれで二度目だが、化粧もかしこまった格好も前回よりは馴染んできた気がする。
金糸の植物柄が入ったドレスに合わせ、葉と蔦を模した金のヘッドドレスを飾られ、シーラは美しく変身した。以前と違い今は相応しい立ち振る舞い方も身についているせいか、その姿は宮廷官達の目にも、とても上品で華麗に映った。
「いやあ、公服がよくお似合いで。ここ数ヵ月のシーラ様の皇妃としての成長ぶりは目を見張るものがありますね。きっと陛下もさぞかしお喜びになると思いますよ」
シーラを呼びに控室にやってきたヨハンが、目を丸くして褒め称える。
アドルフと同じ初対面のときからシーラを知っている彼にそう言われると、成長できた実感ができて嬉しい。
照れてはにかんだ笑いを浮かべシーラは礼を述べると、ヨハンに続いて控室を出て宮殿前広場へと向かった。