軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
広場にはすでに軍楽隊や甲騎隊、近衛隊らが整列している。ヨハンや廷臣らと共に広場の最奥で待機していると、市民達の熱狂的な歓迎の声と共に、整列した軍隊の足音と馬の蹄が大地を揺らす音が聞こえてきた。
街の大通りを、白馬に乗ったアドルフを先頭に各師団の部隊が馬に乗って行進してくる。沿道は言祝ぐ人々で溢れ、国旗を飾った家々の窓からは花吹雪が舞い散った。
そうして隊列は宮殿前広場までたどり着き、アドルフが馬から降りるとひときわ大きな歓声と拍手が降り注いだ。
「さあ、シーラ様」
ヨハンの案内で、最奥に控えていたシーラが歩みを進める。その姿に気づいたアドルフが、一瞬で視線を釘付けにした。
誰よりも早く皇帝に奉迎の言葉を掛けにいった女性の姿に、集まっていた民衆の目も自然と集まる。「あれは?」「まさか噂の皇妃殿下か?」などの声でざわつく中、シーラはアドルフの前まで来るとスカートの裾を持ち膝を曲げ、静かにこうべを垂れた。
「おかえりなさいませ、アドルフ陛下。ご無事に凱旋されることを、心より信じお待ちいたしておりました」
完璧で優美なその所作に、後方に控えていたヨハンは密かに感嘆する。たった数ヵ月でこれほど変われるとは、やはりシーラは生まれついての王族なのだと。これが彼女の本当の姿なのだと思うと、我が帝国は良質な妃を得たという喜びが込み上がってくる。
見違えるようなシーラの高貴さに、アドルフも驚いているようだった。しかしフッと表情を和らげると、手袋を外した手でシーラの頬を優しく撫でた。
「ただいま。俺の言葉を信じ、よく待っていてくれたな。さすが俺の妻だ」
三ヵ月ぶりにふれるアドルフの手は、変わらずに温かく優しい。その感触が懐かしくて嬉しくて、シーラの瞳にみるみる涙が浮かんでくる。