軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
(泣いちゃ駄目……! せっかく皇妃らしく振舞えたのに、アドルフ様をガッカリさせちゃう……!)
泣くのをこらえようと、グッと口をへの字に引き結んだシーラを見て、アドルフが小さく笑う。
そしてシーラを抱き寄せ、誰にも見えないように頭を胸板にうずめさせると、小さな声で囁いた。
「たくさん寂しい思いをさせたな、すまなかった。今日からはずっと一緒だ。――俺もお前に、会いたかった」
抱き寄せる逞しい腕が、軍服越しの胸板が、少しだけ火薬の匂いと混じったケルニッシュヴァッサーの香りが、アドルフが無事に帰ってきたのだということを痛いほどシーラに伝えてくる。
「……会いたかった……、会いたかった、です……」
青と白の軍服の背中をギュッと抱きしめて、シーラはこらえきれなくなった涙と想いを溢れさせた。
自らの戒めを破り公の場で感情を露にしてしまったが、宮廷官も民衆も、もちろんアドルフも、夫の帰還に嬉し涙を零す皇妃を責める者は誰もいなかった。