軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
「み……南イルジアでは、どんなものを召し上がっていたのですか?」
別に南イルジアの料理に興味がある訳ではないが、何か自然に話すきっかけが欲しかったのだ。
するとアドルフはスープのスプーンを置いてから、少し考えて答えた。
「あちらではトマトが手に入りやすかったので、料理人がよく鶏とトマトの煮込み料理を作ってくれた。チェントロの総司令本部にいたときはコトレッタという子牛を揚げたものや、米をチーズとスープで炊いたものがよく出たな」
「米……ですか?」
「ああ、お前は食べたことがないか。……小麦団子を極々小さくしてたくさん集めたようなものだ」
初めて聞く食材の不思議な解説に、シーラはパシパシと瞬きを繰り返す。
自分の解説が上手く伝わらなかったことに、アドルフは眉根を寄せて悩むと、今度は手ぶりを加えて話し出した。
「ひと粒がこれくらい小さいんだ。細長い粒で、それをまとめてスプーンで掬って食すのだが……」
「小麦粉のお粥のようなものですか?」
「……食べ方は近いが、そんなにドロッとはしていなくて……」
ついに腕を組んで悩みだしてしまったアドルフを見て、シーラは思わずクスッと噴き出してしまう。昼間は国中の人間に称えられながら凱旋してきた英雄が、今はたかがひとつの食材の解説にウンウンと悩んでいるのがおかしかったのだ。
シーラが笑ったのを見て、アドルフもしかめていた顔をふっと緩めて眉尻を下げて笑う。
「ははは、案外難しいな。知らぬ者に食べ物を説明するというのは」
「ふふ、でも楽しいです。アドルフ様の説明から、いろんな風に想像できますもの」
おかげでさっきまでの緊張が解けたシーラは、アドルフとたくさん話したかった気持ちがどんどんと込み上げてきた。
「ねえ、もっと教えてください。南イルジアではどんなお花が咲いていました? お手紙に書いてあった海のお話も、もっと聞きたかったんです」
今にも身を乗り出しそうになって尋ねるシーラに、アドルフは笑いを零しながら宥める。
「分かった、順番に話してやる。けど、それが終わったら今度は俺の番だ。離れていた間、お前がどんなふうに過ごしていたか聞かせてくれ」
「もちろんです!」
会話の弾んだ晩餐は二時間も続き、まだ喋り足りないふたりは就寝まで居間でお茶を飲みながらお喋りを続けた。
やがてシーラが眠気に襲われあくびを零すと、アドルフは少しだけ名残惜しそうにシーラを抱きしめ、おやすみのキスを与えてから、寝室まで送っていってくれた。