メーデー、メーデー、メーデー。
「これ以上はやめましょう。危険です。正常脳まで傷つけてしまいます」
早瀬先生が木南先生に向かって首を左右に振り、吸引を辞める様に訴える。
「正常脳は絶対に傷つけない。まだ90%しか取れていない。これでは意味ない。5%以上取り残してしまったら、放射線も化学療法も効果が出ない。もう少しなのに、諦めてたまるか」
だけど、木南先生は早瀬先生の制止を無視し、吸引除去を始めてしまった。
正常脳ギリギリの際どい部分を攻め、吸引を続ける木南先生。
その様子を固唾を飲んで見守るしか出来ない。何も出来ない自分がもどかしくて情けなくて悔しい。
しかし、木南先生はやはり天才だった。
全摘は出来なかったものの、しっかり95%以上の腫瘍を除去したのだ。
「研修医、頭閉じて。あとはお願い」
よっぽど疲れたのか、木南先生は強めの瞬きを数回すると、オペ室を出て行こうとオレの横を通り過ぎた。
「木南先生、ありがとうございました」
木南先生にお礼を言いながら振り向くと、そこにいるはずの木南先生がいなかった。
「…え?」
『瞬間移動?!』と驚いていると、
「木南先生!!」
オレの向かい側に立っていた早瀬先生が、慌てた様子でオレの方に回り込んできた。
木南先生が、オレの足元に倒れ込んでいたからだ。