メーデー、メーデー、メーデー。

 「私も間違っているなんて思っていませんよ。ただ、避けられるなら避けた方が患者さんの負担が少なくて済むでしょう?」

 木南先生がオペ中の藤岡さんの脳を覗き込み『上手いなぁ。やっぱり』と呟いた。

 「でも、木南先生にはしなければならないオペがあったじゃないですか」

 木南先生に褒められて、早瀬先生の眉が八の字になる。

 「臨機応変ですよ。出来る人間がやればいい。川原さんのオペは私が、藤岡さんのオペは早瀬先生が出来る。その時の最善策で動けば良いと思います」

 「私が来られなかったらどうするつもりだったんですか」

 行き当たりばったりに聞こえる木南先生の発言に、今度は眉間に皺を寄せる早瀬先生。

 「そしたら川原さんにストーマくっつけて藤岡さんのオペをしますよ、臨機応変に。それに、早瀬先生がはどんなに忙しくても来てくれると思っていましたから。あなたは患者を見捨てるなんて事は絶対にしない」

 しかし、木南先生はあくまで臨機応変である事を主張した。

 「それは木南先生だって同じでしょう? 藤岡さんのオペ、最後まで私にさせてください。木南先生、さっきまでオペをしていて疲れていらっしゃるでしょうから」

 早瀬先生がマスクの下で息を漏らして少し笑った。
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