メーデー、メーデー、メーデー。
「はい。今後一切口にしません」
木南先生に強く頷くと、
「研修医、もうお昼だよ。午後からカンファレンスだから食べ過ぎないでね、眠くなるだろうから」
木南先生は、何事もなかったかの様にサクっと話を変えた。
本当に何事もなければ、木南先生があんな目をすることもなく、早瀬先生も脳外に今もいたんだろうなと、複雑な気持ちになりながらも、
「木南先生は今日はちゃんと食べるんですか?」
何事もなかった事にする魔法など持っているはずもないオレは、大根役者ながら何もなかったフリをするしかない。
「さっきヨーグルト食べた」
「女子ー。それだけじゃ足りなくないですか?」
そして、普段通りを装うぎこちない会話を続ける。
「足りる足りないの問題ではなく忙しいの、私は。研修医と違って」
「木南先生が忙しいのは分かりますが、昼食取る時間もないくらいですか? 素直にダイエットって言えばいいのに」
木南先生もオレもいい大人だから、話をしているうちにいつもの調子を取り戻せるから。
「あーもー。超絶うざいわ、この研修医。さっさとお昼に行きなさいよ」
「はいはーい」
完全に調子が戻ったところで、木南先生と面談室を出た。
この日以降、木南先生との約束通り、桃井さんから聞いた話をせず、何事もない日常を送っている。
あ、何事もなくない。
この前、関屋くんから連絡が来て、THBOのHPの掲示板に『入会希望』とだけ打ち込まれたメッセージが藤岡さんからきたらしい。