メーデー、メーデー、メーデー。

 『苦しみの共感は慰めになる』

 ふと、関屋くんの言葉を思い出した。

 バリバリに働いて昼食を抜くことさえある忙しい木南先生が、被害者の会などに参加している様には見えない。

 木南先生が、愚痴ったり弱音を吐いている姿も見た事がない。

 じゃあ、木南先生の心はどうやって慰められているのだろう。

 蓮くんの死に直面して、もし今とてつもなく悲しい思いをしているとしたら…。

 無意識だった。

 木南先生を抱き寄せようと右手を挙げた時、

 「もう行かなきゃ。CRCのアポが入ってるんだった」

 木南先生が突然ドアの方向に身体の向きを変えた。そして、

 「何、この手。」

 オレの怪しい右手に気が付いた。

 完全に意識不明だったオレの右手を『何?』と聞かれても、オレにも分からない。

 「ド…ドアはあちらです」

 ドアに誘導するかの様に右手を伸ばして誤魔化してみるが、最早意味不明。

 「知ってます」

 木南先生は、オレに面倒くさそうに返事をすると、先に霊安室を出て行った。ドアが閉まった事を確認し、

 「本当に何なんだ、この手」
 
 自分の右手を左手で乱暴に振り落すと、

 「蓮くん。蓮くんが生まれ変わった時、また万が一病気になったとしても、今度は必ず助けるよ。オレ、もっと頑張って立派な医者になるから。だからまた、生まれてきてね」

 もう一度蓮くんに手を合わせて、オレも霊安室を後にした。
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