メーデー、メーデー、メーデー。
早瀬先生の黒目がオレの左側に移動し、木南先生を捉える。
木南先生は早瀬先生がオレたちの存在に気付いている事に気が付いていないらしく、『どんまーい』と笑いながらオレの肩を叩く。
気まずさからか、『もう大丈夫です』と桃井さんから離れようとする早瀬先生を、『大丈夫には見えません』と桃井さんが更に強く抱きしめた。
桃井さんに抱き着かれながら、早瀬先生が困った目で見つめているのは、木南先生だった。
木南先生が自分たちに気付いないと思っているだろうこの人は、この状態を木南先生に見られたくないんだなと悟った。
早瀬先生は、木南先生に未練があるのかもしれない。だとしたら、自分の事を好いてくれている桃井さんの好意を利用して、自分の辛さの捌け口にするのはどうなんだろう。
亡くなった息子さんの事がフラッシュバックして、耐え難い苦痛を感じているのかもしれないけれど、それは木南先生だって同じ。
心の強さには個人差がある。木南先生が強いだけなのか。早瀬先生が弱すぎるのか。
耐え難い事は、心が強い人にだって耐える事が難しいのではないのだろうか。