ただいま冷徹上司を調・教・中!
愛情よりも無難を選んでしまった自分への罰が、今ここで帰ってきてしまったのだろうか。

「以前にも言ったと思うけど……」

軽い頭痛を感じて、私は溜め息と一緒に目を閉じた。

「私はもうあなたと関わりたくないの」

言いたいことはたくさんあるけれど、これが全てを抄訳した最善の言葉だ。

これさえ理解してくれれば、もう何も望まないから。

『それは、新しい男ができたから?』

全く的はずれな和宏の発想に、情けなくなってくる。

『俺と別れてすぐに他の男を作るなんてな。もしかして俺は遊ばれてたのか?』

ふざけるな!と叫びたくなる気持ちを必死に押し殺し、私は震える唇を開いた。

「和宏じゃあるまいし、私は人を裏切るような真似は絶対にしない。和宏と別れたから、彼に惹かれたの」

『千尋は男をルックスで選ぶような女じゃなかっただろ?』

「なにいってるの?」

私が平嶋課長を選んだのは、彼の顔がいいからだとでも言うのか、コイツは。

平嶋課長の顔は確かに恐ろしい程に整っている。

けれど私はそんな平嶋課長が最初は苦手だった。

平嶋課長の本当の姿を知って、私は初めて彼の魅力に気が付いたのだ。

外見なんか関係ない。

私は平嶋課長の内面を好きになったんだから。

「私は容姿で彼を好きになったんじゃないわ!彼ならどんな容姿であっても好きになってた!」

そう勢い任せに声を張り上げて。

…………あれ?

私は自分の時間を自分で止めてしまった。

電話口で何やら騒いでいる和宏との通話を、一方的に遮断するかのようにスマホの電源を落とす。

ノロノロと立ち上がり、洗面所へと移動して、洗面台の鏡に映った自分の顔をマジマジと見つめた。

「あなた今、何言ったの?」

そう問いかけた鏡の中の私は、明らかに戸惑いの表情を浮かべていた。
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