ただいま冷徹上司を調・教・中!
いやいやいやいや。

冗談じゃないぞ、私。

平嶋課長のことは、少し前まで苦手だったはずでしょう?

あれだけのルックスを持っている男が、女難の相を持ってないわけがない。

惚れたら痛い目見るってわかってるじゃないか。

いくら恋愛不適合者であったとしても。

それでもあの見た目だけでどれだけの女を虜にできるか。

考えただけでも恐ろしい。

ビジネスライクの関係以上に踏み込むのはよくない。

ましてや好きになるなんて絶対にダメだ。

今の距離感が最前に決まってる。

頭では十分に把握出来ているのにも関わらず。

鼓動はどんどん早くなっていく。

その速さが自分の本当の気持ちを表しているということを悟って、もう遅いんだと脱力した。

「ただの冷徹男だったらよかったのに……」

平嶋課長の素敵なところをたくさん知って。

平嶋課長のいい所が溢れるように思い浮かぶ。

「もう手遅れなんだろうなぁ……」

自覚してしまえば、頭に浮かぶ平嶋課長の笑顔は無駄にキラキラしていて神々しいほどだ。

一番警戒してたはずなのに。

こんなにもあっさりと落ちることになるなんて。

「私も簡単な女だな」

身持ちも固く慎重で、冷静に見極めることができると思っていた。

なのにこうもあっさりと平嶋課長に惚れちゃうとは……。

これからの関係が大きく変わってしまうのではないか、と心配が過ぎるのは仕方のないことだ。

明日から平嶋課長とどう接したらいいんだろう。

洗面所にしゃがみ込んで頭を抱え……。

「いや、問題ないじゃん?」

ガバッと顔を上げた。

もともと恋人として接すると二人で決めたはずだ。

だったら思いっきりラブラブモードになったとしても、なにひとつ不自然なことではない。

「やっぱりこの関係はオイシイな」

立ち上がり微笑むが、鏡に映りこんだ自分の笑顔はとても悪い顔をしていた……。
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