ただいま冷徹上司を調・教・中!
どうしてここに彼がいるんだろうか。

自分にそう問いかけてみても、なんの答えも帰ってはこない。

ただ一つだけわかっていることは。

自分のこの気持ちだけ。

「ちょっと待っててくださいっ」

逸る気持ちを抑えて、私は玄関に駆け出した。

鍵とドアロックを外すのさえももどかしい。

「どうぞっ」

大きな声でそう言いながら玄関を開くと、そこには太陽の光に負けないくらい輝いて見える、スーツ姿の平嶋課長が立っていた。

「ごめんな、朝っぱらから」

申し訳なさそうに小さく笑った平嶋課長の笑顔に心臓を鷲掴みにされた私は、昨晩のモヤモヤなんてキレイさっぱり忘れたかのように心が軽くなる。

「大丈夫です。散らかってるけど、上がってください」

体を避けて平嶋課長を玄関スペースに招き入れてドアを閉めた。

しかし平嶋課長は、私を見た途端にスっと視線を逸らしてしまった。

「課長?」

「いや……悪い。その……久瀬があまりにも……いつもと違う格好をしてるから驚いて……」

そう言われて改めて自分の姿を確認し……。

「あ……」

思わず体を縮めてしまった。

なんて格好で平嶋課長を出迎えてしまったんだ私は。

超ミニのショートパンツに、胸元がV字に大きく開き、体にピッタリとフィットした半袖Tシャツを着ている。

思いっきり大胆なルームウェアだ。

「すっ……すみませんっ。お見苦しいものを。とりあえずコーヒーでも入れるので、どうぞ」

手で胸元を抑えながらリビングに移動しようとしたのだが、「いや、今日はいい」平嶋課長はそう言って私を制した。

「せっかくのデートをキャンセルしたのがずっと気になって、眠れなかったんだ」

それは私だって同じだ。

その言葉を飲み込んで、私は平嶋課長を見つめた。

「毎週末、一日は一緒に過ごすって決めたのに、早々に守れなくなって」

「もしかして、だから会いに来てくれたんですか?」

自分に都合のいい解釈だが、そうであって欲しいと願った。

「今から会社に行くんだけど、その前に少しでも顔を見れたらいいなと思ってな」

「それは顔を見せなきゃ行けないという義務感から……?」

恐る恐るそう聞くと、平嶋課長は少し照れたように笑ってくれた。

「いや、俺が久瀬の顔を見たいと思ったんだ」

はい、もう、ガッチリ全部、平嶋課長に持ってかれちゃいました。

平嶋課長の笑顔に、腰砕けになりそうなのを必死にこらえた。
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