ただいま冷徹上司を調・教・中!
私の体勢では会議室のドアを窺い知ることはできない。

けれどドアの開く音と、空気の流れ方で誰かが来てくれたことはわかった。

そしてそれが誰なのかも。

和宏の体の固まり具合で想像がついた。

「……なんで……ここに……」

絞り出すように小さな声で呟いた和宏に。

「助けてと言われれば、そりゃ助けに来るだろ」

声の主は淡々とそう答えた。

下から和宏の体をこれでもかというほど突き飛ばすと、彼は呆気なくよろめく。

その隙にテーブルから飛び起き、慌てて服装の乱れをなおした。

そんな私の姿に、眉をひそめて心配そうな視線を送ったのは、平嶋課長その人だった。

「吉澤。お前、自分が何をしたのかわかってんのか?」

声を荒らげるわけでもなく。

表情を崩す訳でもない。

あくまで冷静に。

静かに平嶋課長はそう尋ねた。

「わかっているのか、と聞いている」

トーンの下がった平嶋課長の問いに、和宏の肩がビクッと震える。

「いや、あの……」

そうやって自分より強い立場のものや、都合の悪いことがあると何も言えなくなってしまうところが情けない。

それなのに自分よりも弱いものには、自分の意見を押し付けて思い通りにし、自分の力を見せつけようとする。

小さな小さな力のくせに。

この情けなさに、もっと早く気が付くべきだった。

「確かに社内で強引だったと思います。すみません。でもこれは俺と千尋の問題ですので……」

「お前の思考能力はどうなってるんだ?」

和宏の言葉に被せるように発した平嶋課長の声色は、明らかに苛立っているようだった。

「お前がどんな考えを持っていようと、どうしたかろうと、相手の同意が得られていない時点で犯罪だろう?」

「そんなっ!だって俺と千尋は付き合って……」

「ないだろうが。自分に都合のいい妄想も大概にしろ」

私の気持ちを代弁してくれている平嶋課長を見つめると、なんだか涙が溢れてきた。
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