ただいま冷徹上司を調・教・中!
「お前はどれだけ自分勝手なんだ?先に久瀬を裏切ったのは自分自身だろ」

平嶋課長にそう言われると、何も返す言葉がないのだろう。

唇を噛み締め、ぐっと堪えているようだ。

「それとも何か?お前は自分のした事がどんなことなのか、理解していないとでも言うのか?だったらいつでも教えてやるぞ」

高圧的な平嶋課長に対してとても小さい和宏が、なんだか哀れに思えてくる。

「……だから……です」

蚊の鳴くような声を絞り出し、和宏は眉を下げて平嶋課長を見上げた。

「自分のしたことをわかってるから、今度こそ千尋を幸せにしてやれると思ったんですっ」

勢いよく発した言葉の意味は意味不明。

「吉澤。お前は本当に何もわかってないな」

平嶋課長も同意見なのか、和宏を哀れみの目で見つめ、深く溜め息をついた。

「今度なんて都合のいいものは、もうないんだよ。一度裏切ったら二度とチャンスはない。それだけ久瀬のことが好きなら、裏切らなければよかったのにな」

平嶋課長に優しく諭すように、けれど冷たくそう言われ、和宏はすっかり項垂れてしまった。

「……今日は帰ります。すみませんでした……」

平嶋課長の横を通り過ぎ、会議室のドアを開けようとしたところで、和宏の動きがピタリと止まった。

「……ません……」

「ん?」

「俺、千尋のこと諦めませんから」

「まぁ、お前の気持ちは否定しないし無理に諦めろとは言わない。ただ、久瀬の気持ちを第一に考えてやれ」

まるで和宏へのエールのように聞こえる平嶋課長の言葉に引っかかったが、あえて私は口を挟むのをやめた。

和宏がガックリと肩を落として会議室を出ていくと、私と平嶋課長の2人だけになった途端静寂が訪れた。
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