ただいま冷徹上司を調・教・中!
「実は……な」

神妙な面持ちで言葉を探る凱莉さんは、とても言い出しにくそうに眉間にシワを寄せる。

「こんなことを千尋に言っていいのかわからないんだが」

そんなに判断できないほど重たい話しなら、やっぱり聞くべきではないのではないか。

「話しにくいことなら別に言わなくていいです。ごめんなさい。無理に聞き出そうとして」

なんとか話を逸らそうと明るくそう言ったけれど、凱莉さんはそれを制して続けた。

「聞いてくれ。これもいつかは伝えないといけないことだ」

「はい……」

そう言われると、やはり聞かねばならないだろう。

「俺は何度か女性に食事を作ってもらったことがある」

それはそうだろうな。

不思議なもので、女というものは恋人に食事を作ってこそ関係を実感する生き物である。

ま、持論だが。

「けれどそれで何度も問題に直面した」

「問題?」

「どういうわけか彼女たちは、俺の望まない料理ばかり作って披露するんだ」

……ん?

「仕事から帰ってきて有り得ない量のフレンチをどっさり作ってみたり、朝からバイキングのようなモーニング作ってみたり……」

凱莉さんは思い出しても苦痛だとばかりに頭を抱えた。

「しかもそういう料理を作る人の味覚は、決まって俺の味覚と合わないんだ」

……私がずっと疑問に思ってモヤモヤしていたことは、実は重いものではなく……。

「塩を足してもソースを足しても醤油を足しても不快な顔をされる。それを口に出そうものなら激怒だ。そうなればもう、目玉焼きの硬さも選べない。手料理は振る舞うもので押し付けるものではないはずなのに、だ」

……実はすっごく軽いものだったんじゃないの?
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