ただいま冷徹上司を調・教・中!
ケロッとした顔でそう言ってのける梨央は、前のまま何も変わらない。

「平嶋課長ね、絶対誘惑に乗らないのよ。それどころか、あの人私になんて言ったと思う?」

「……さぁ」

冷たく突き放したことは聞いているが、細かいことは教えてもらっていない。

「名前も覚えてないのに、どうして一緒に過ごす必要性があるんだ?って私に聞くのよ。失礼すぎると思わない?」

凄いストレートな言葉だ。

私が梨央ならもう二度と平嶋課長と会いたくない。

「おまけに私と一緒にいる時間が無駄だって」

「そんなこと……言ったの?」

「言ったわよ。有り得ないでしょ?仮にも好きにしていいって誘惑してきた女に対してよ?こんなに打ちのめされたの、初めてだった」

今までも男に不自由はしたことがないと豪語していた梨央だ。

そこまで徹底的に跳ね除けられたら、もう近付くのをやめようと思っても不思議ではない。

「吉澤さんは簡単だったのに」

「あの人は頭が弱いから、先のことを考えることができないのよ」

「そうなの。だから彼は千尋と合わないって思ったわ。なのに千尋はずっと文句も言わずに付き合い続けてる。不思議で仕方なかったの」

裏切られ続ける自分は大した人間ではないと、高望みもせずに穏便に済ませてきた私だ。

それでも付き合い続ければ情は湧くし、彼の優しさは嬉しかった。

だから2年半も一緒にいられたんだ。

「どれだけの男かと思ったら、身体も千尋に対する気持ちも、簡単に壊すことのできる程度だった。それなら千尋には不必要だと思ったの」

似たようなことを以前も言われた気がしたけれど、あの時は頭に血が上っていて何も聞こえてこなかった。

けれど、今なら少しは分かる気がする。

これも凱莉さんのおかげなんだな、と改めて思った。
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