ただいま冷徹上司を調・教・中!
凱莉さんはご飯を食べているときも言葉少なめだった。

出張でのことを話してはくれるのだけれど、どうも心ここにあらずといった感じだ。

凱莉さんが食後の話に緊張感を持っているというのが私にも伝わる。

おかげでせっかくのご飯は、何の味もしなかった。

食事を終え、食器を手早く片付けたころ、給湯器のメロディーが流れた。

「俺が行ってくる」

凱莉さんがお風呂場に向かったのを確認して、私は大きな溜め息を吐き出す。

「この空気感……重すぎる……」

4日前はあんなにラブラブな雰囲気で別れたというのに。

今日の凱莉さんはまだ一度も私に触れてくれない。

避けるように引かれた手を思い出すと胸が苦しくなる。

凱莉さんと一緒にいるのに、初めて帰りたいと思ってしまった。

「千尋、いいか?」

流しに手をついて俯いていた私は、覚悟を決めて顔を上げた。

「はい」

そう言って凱莉さんと並びソファーに座ったけれど、不自然に距離を取ってしまった。

どうしよう……。

もう触れたくても触れられなくなってしまったじゃないか。

これで悪い話だったりしたら、もう立ち直れないかもしれない。

「千尋には今までたくさんのことを教えてもらった。本当に感謝してるよ」

やめてよ。

急に感謝してるなんて、変なフラグ立てるような言い方しないでほしい。

もう体全部が心臓になったように、鼓動が大きく鳴り響いた。
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