ただいま冷徹上司を調・教・中!
「今までの俺を変えてくれたのは千尋で、そのおかげで俺はいろんなことが見えるようになってきた」

自分の領域が侵されることを極度に嫌っていた凱莉さん。

一緒に何かをする、という発想がなかった凱莉さん。

けれどいつの間にか私を凌駕するまでの人になった。

「俺は本当に千尋と一緒にいられてよかったと心から思っている」

「……それは私も同じです」

同じなんだけど……。

今の凱莉さんの気持ちと私の気持ちは、全然違うような気がして怖い。

「でもな……」

ほら……。

「変えなければよかったと思うことがあるんだ」

……この先はもう、聞きたくない。

手足の先が冷たくなってくるのがわかる。

私は今日、凱莉さんを失ってしまうのだろうか……。

「4日間の出張で思い知った」

出張先に、他に良い人がいた?

恋愛上級者に変貌した凱莉さんなら、選び放題だもの。

それは仕方のないことかも知れない。

けれどそれはあまりにも唐突で、酷すぎないか?

涙が込み上げてきそうになったとき。

「俺……一人で眠れなくなったみたいだ……」

「…………は?」

しゅっと勢いよく涙が引っ込んだ。

「今までは一人でないと眠れなかったんだが、千尋と眠るようになってしまったら、今度は一人じゃ眠れなくなった。そういうことだと思う」

……もしかして凱莉さんが酷く疲れたように見えていたのは、本当に寝不足のせいだったっていうの?

「情けないことに俺は千尋がいないと、眠ることもできなくなってしまった」

ちょっと……さっきとは違う意味で……やめてよ……。
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