ただいま冷徹上司を調・教・中!
「出張に行く前に千尋が言ったんじゃないか。4日分抱いてくれって」

「違います。抱きしめてくださいって言ったんです」

「同じ意味だろう?」

「だから違うってば……」

この大きな差をどうしてくれようか。

全く動かないくらいに疲れ切った身体が、あと数時間で回復するものなんだろうか。

上司のくせに、仕事に支障が出かねないほど部下を抱くってどうなのよ。

心の中で悪態をついてみるけれど、身体と心の奥底では幸せに満ち溢れているなんて。

こんなに幸せに浸れるのなら、ずっと抱かれ続けてもいいかもしれないと思った。

本当にやりかねないから絶対に凱莉さんには言わないけれど。

「風呂、どうする?」

「浴槽の中はもうきっと水ですよ。出勤前にシャワーだけします」

今は少しでも寝かせて欲しい。

私の願いはただそれだけだった。

「なあ、千尋」

「なんですかぁ?」

眠りに落ちそうにふわついている頭を凱莉さんの胸に擦り付けながら、私は間延びした返事をする。

「今思ったことがあるんだが……言ってもいいか?」

「いいですよぉ。有給でも取っちゃいますか?」

だったらとても有り難いんだけどな。

このふわふわした感覚が気持ちよくて。

凱莉さんの温もりをもっと感じていたくて。

目を瞑ったままで何気にそんなことを言ってみたのだけれど。

凱莉さんの考えは違ったようだ。

「結婚しないか?」

「いいです……よあぁぁっ!?」

凱莉さんの思いがけないその言葉は、私を夢の国から一気に呼び戻す呪文だった。
< 225 / 246 >

この作品をシェア

pagetop