ただいま冷徹上司を調・教・中!
思わずガバッと飛び起きて、裸体を曝してしまった。

けれどそんな羞恥心も感じないほど、私の頭の中はパニックに陥っていた。

え?え?え?

ちょっと待って。

何言ってんの?

なんかすっごい言葉が聞こえたんだけど?

「乳出てるぞ」

「出してるんですっ」

というか、そんなことをサラッと突っ込んでいる場面じゃないだろう。

「凱莉さん。……今なんて……?」

聞き間違いじゃないだろうか。

私の奥底にある欲望が、幻聴を生み出したのではないだろうか。

そうとしか考えられないほどに唐突な言葉だった。

「なんか……ありえない言葉が聞こえたんですけど」

「ありえなくないだろう?」

凱莉さんは布団を上げて私の胸を隠してくれながら、当たり前とでもいうかのように飄々としていた。

「俺はもう、千尋がいないと安眠すらできない。一緒に暮らしたいと思ったけど、千尋のご両親の心情を考えたら、中途半端に同棲なんかするよりも、ちゃんと結婚という形の方が正しいと思った」

「それはなんというか……」

まさか私の両親のことまで考えてくださるなんて、本当に有難い限りなんですが。

凱莉さんほどのやり手のイケメンが、私で手を打っていいものなのだろうか?

「凱莉さん。結婚は基本的に一生に一度しかできないものなんですよ?」

もしかしたら本当の意味で凱莉さんにふさわしい女性が現れるかもしれないのに。

……いや、もちろん現れてほしくなんてないというのが本心だけれど。

「そんなの当り前だろう。二度も三度もしてたまるか」

「ごもっとも……」

そう、一生に一度だからこそ、後になってこんなはずじゃなかったと後悔してほしくないのだ。
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