ただいま冷徹上司を調・教・中!
いつも私達に申し訳ないと言って帰る紗月さんだけれど、そこはさすが平嶋課長が信頼している人だ。

私達のカバーなんて全く必要のないくらいの完璧な仕事ぶりなので、一度も手間がかかったことがない。

仕事が一段落して時計を確認すると、時刻はもう十九時を指していて、帰り支度をしている社員が増えてきた。

けれどこの時間になっても、平嶋課長はまだ社に戻って来ていない。

平嶋課長が新規で担当することになった総合病院の事務窓口は私なので、課長不在中に帰るのは抵抗もある。

けれど平嶋課長は常々、『残業はすればするほど効率が悪い。自分の仕事は時間内で終わらせて無駄な残業はするな』と言っている。

実際に平嶋課長も課を統括しているのにも関わらず、驚くほど仕事が早く驚くほどの数字を叩き出す。

そういえば今日は大きな商談だとかで、診療時間後の時間指定だったはず。

平嶋課長なら、こんな時は待つよりも帰れと言うに違いない。

私はパソコンの電源を落とし、「今日はお先に」と瑠衣ちゃんに声を掛ける。

「お疲れ様でした。本当なら千尋さんの新たな門出を祝ってご飯にでも行きたいところですけど、もう少しかかりそうです」

唇を尖らせて伝票をチラつかせた瑠衣ちゃんの肩に手を置き、「頑張ってね」と囁いた。

みんなに「お疲れ様でした」とにこやかに挨拶して、自分のマグカップを持ちフロアを出た。
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