ただいま冷徹上司を調・教・中!
私は思わず顔をしかめたまま、梨央の腕を振り払った。

数歩下がって彼女から距離を取り、思いきり気だるく溜め息をついてやる。

「あからさまに嫌な顔するわね」

梨央が苦笑しながらそう言うけれど、私はその顔も声も見たくも聞きたくもない。

こんな状況で、ニッコリ笑ってお話なんて、できるはずがないじゃないか。

「私ね、特別記憶力がいいわけじゃないけど、昨日のことくらい覚えてるの。だから梨央とは口も聞きたくない」

確かに梨央は男性から見れば魅力的な女なのだろう。

メリハリのあるボディーラインに小さい顔。

きっと半分はメイクのせいもあるだろうが、目鼻立ちもしっかりしていて淡い茶色の巻髪も艷やかだ。

確かに私とは出ているフェロモンの質が違うのは認めよう。

けれど、人の彼氏を寝取るのと容姿とは全くもって関係のないことのはず。

しかも私と和宏の関係を、最初から最後まで知っていたのは梨央だけなのだから。

そこまで親しい間柄だったのにも関わらず、彼女は平気で和宏と二人、私を裏切ったのだ。

「千尋の彼からメッセージもらったの。千尋から突然別れるって言われた。俺達の関係がバレた、って」

「だったら話が早いね。そういうことだから、今後は私に気兼ねしないで堂々と付き合ってもらって構わないわよ」

今まで私が気付かなかっただけで、二人はお互い惹かれあっていて、何度もあんなことがあったのかもしれないし。
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