ただいま冷徹上司を調・教・中!
今まで妥協した楽な恋愛しかしてこなかったツケが、こんなところで回ってこようとは想像もしていなかった。

あまりにも恋愛スキルがなさ過ぎて、たとえ隣に座れたとしても何をどうすれば平嶋課長に近付けるのかさえもわからない。

どうやら完全に私の経験不足と、割って入ることもできない根性不足だ。

諦めてしまえばドッと疲れが押し寄せる。

だいたい私がどうしてこんな思いしてまで平嶋課長に近付かなくちゃいけないんだ。

いくら難攻不落の男を堕とすのが趣味の梨央に対する当てつけで平嶋課長に近付いたとしても、そんな課長が私に落ちるなんて有り得るはずがないじゃないか。

冷静に考えればわかることなのに、どうして隣に座れば平嶋課長が私に落ちて梨央を見返せるなんて安易なことを信じていたんだろう。

そもそも平嶋課長のことを堕とせるくらいの魅力が私にあるのなら、歴代彼氏に浮気なんてされてるはずがない。

「……アホらし……」

そう呟いてジョッキのビールを一気に飲み干すと、私を挟んで座ってくれていた紗月さんと瑠衣ちゃんが追加のビールを頼んでくれた。

「千尋さん、今日はとことん付き合いますから、目一杯飲みましょう!」

「私もチビちゃんは旦那に託してきたから付き合うわ。潰れたら連れて帰ってあげるから、安心して飲んでいいからね」

二人から笑顔でそう言われると逆に、社会人なんだし会社の飲み会ではさすがに潰れられないだろうと姿勢を正したが……。

その気持ちも三十分と持たずに私はフラフラになってしまった。
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