ただいま冷徹上司を調・教・中!
夢と現実の狭間のような感覚で、私は気分よくユラユラと揺れながらお手洗いを後にした。

もう歩くのも面倒くさいなぁ。

せっかく紗月さんが付いて来てくれるって言ってくれたのに、どうして断っちゃったんだろう。

座り込みたくなる衝動を必死に抑えながら細い廊下をノロノロと歩く。

大きく自分の身体が傾いて、あ……これ、倒れてんのかも……とやけに冷静な頭でそう思いながら目をつぶったとき。

「いったいお前はどれだけ飲んだんだ?」

頭上から低いイケボが聞こえたかと思った瞬間、私は心地いい温もりに抱きかかえられていた。

今にも閉じてしまいそうな瞼を何とか開けて声の主を見上げると。

「あれ……すっごいイケメン……」

焦点を合わせようにもすぐにぼやけてしまう私の目では、誰だという判別よりも声の主がとてつもなくイケメンであるということしかわからない。

「何言ってんだ。ほら、戻れるか?」

心配そうに聞いてくる声の主は、なんとか私を立たせようとしてくれているけれど、もう私の足にはわずかな力しか残っていない。

「なんだ……このイケメン……。イケメンでイケボだなんて神か……?」

そう滅多にお目に掛かれないであろう貴重な生物を、こんな意識朦朧の中でしか見れないなんて残念過ぎる。

せめてもうひと目だけでも顔を見せてほしいのに。

なんとか腕を伸ばしてイケメンの頬に触れて。

「こんなイケメン……欲し……い」

遠くでイケボのイケメンが何かを言っているようだったけれど。

残念なことに、ここで私の意識は途絶えてしまった……。
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