ただいま冷徹上司を調・教・中!
『梨央ちゃ……ん』

堪えるように彼が囁いた女の名前は、私の職場の同期で一番仲のいい、植村梨央(ウエムラリオ)だったのだ。

私はそれ以上のことを聞く勇気も見る勇気もなく、こっそりと彼のマンションを後にした。

ショックを受けた頭で一晩中考えたのは、今後の二人に対する接し方だった。

毎日顔を合わせる社内で、素知らぬ顔をして振る舞えるほど私はできた人間ではないし、そうなるつもりもない。

今までの私から脱却したい。

私がただの弱い女だと思わないでほしい。

怒りもするし復讐心だって立派に持っているんだ。

真正面から朝日を浴びながら、ぎゅっと握り拳を作る。

「くっそ……。仕返ししてやる」

悪夢のような昨日を思い返しながら、私は自分が働くオフィスビルの真ん前でポツリとそう呟いた。

私が働いているのは医療機器を取り扱う商社で、大学病院から個人病院、クリニックなど、かなりのシェアを誇っている。

ここは三階建ての自社ビルで、大まかにいえば一階は商談室と保管倉庫。

二階は事務所。

三階は重役室と会議室、という風に分かれており、私は二階で仕事をしている。
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