ただいま冷徹上司を調・教・中!
エレベーターも設置されているが、私はいつも階段を使って二階に上がっている。

広いフロアは大した仕切りなどなく、机の配置だけで課が分かれているので、当然のように私を裏切った二人もいるという、かなりヘビーな環境になっているのだ。

今までは何の支障もなく働けていたし、たまにすれ違う彼とのアイコンタクトに胸をときめかせていたりもした。

けれど今となってはもう顔も見たくない。

黒い感情を笑顔で隠しながら挨拶を繰り返し、私はようやく自分のデスクについた。

カバンから必要なものを取り出し、デスクの一番奥に入れているカゴの中にバッグと着てきた薄手のスプリングコートを畳んでしまった。

四月二日に入社式を迎え、新入社員が入ってきて一週間と少し。

ドタバタもようやく落ち着いてきたこの時期に、今度は私生活に波風が立つなんて思ってもみなかった。

和宏は私の二つ上の先輩で、課は違うけれどもとても優しい営業マンだった。

総合病院の新規参入の時に親しくなって、私達は次第に距離を縮めて付き合うようになった。

それが今から二年半くらい前のことだ。

正直いうと全てが普通スペックの男だった。

顔も特別人目を惹くほどではないが、爽やかだし悪くはない。

性格も特別抜きに出るものはなかったが、誠実だったし悪くはない。

仕事も特別成績がいいわけではなかったが、毎月予算は達成しているし悪くはない。

何でもかんでも悪くはない。
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