ただいま冷徹上司を調・教・中!
すると平嶋課長は少し驚いたような顔をして私を見下ろした。

強引に迷惑な約束させた私がこんなことを言うのは、そんなに意外なことなのだろうか。

「俺はただ、久瀬との条件を遂行しているだけだ。お前がお礼を言うことじゃない」

平嶋課長はぶっきらぼうにそう言った。

しかしそれは、じゅうぶんお礼を言うべきことじゃないだろうか。

「女子社員の攻撃が私に向かないように配慮してくださってたって聞きました。平嶋課長のおかげで、なにも問題なく収まってます」

「社内の嫉妬は自分を蝕むだけじゃなくて、必ず仕事に影響が出る。それで迷惑するのは俺達じゃなくて顧客だからな。久瀬のためじゃなく、仕事のためだ」

「そうですか……」

仕事ができる男の模範的な答え。

しかしそれはほんの少し私の胸にモヤをかけた。

平嶋課長になんと答えて欲しかったのかはわからない。

けれどこの言葉は私の欲しかった言葉とは違うということだけはわかる。

「仕事に影響が出ないためなら、どんなフォローでもしてくれるってことですか?」

そう意地悪な質問を投げかけると、平嶋課長は少しだけ返答に困った表情をしたが、すぐに頭の中で答えを弾き出したのだろう。

「俺にできることならな」

そうハッキリ口にした。

そうなのか。

だったら、平嶋課長しかできないフォローをしてもらおうじゃないか。

なぜか強気のスイッチが押された私は、チラリと後ろを振り向き、梨央がいることを確認してから平嶋課長にとんでもないことをお願いしてしまった。
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