ただいま冷徹上司を調・教・中!
「平嶋課長。私を課長の家に連れてってください」

勢いに任せて出た言葉は、自分でさえも驚くような大胆なセリフだった。

「……なんだって?」

滅多なことでは表情を崩すことのない平島課長だが、さすがに驚きを露わにして私を見下ろしてしまった。

立ち止まってしまった平嶋課長の腕を取り歩くように促すと、平嶋課長の長い足が少々もたつく。

「しっかりしてください。別に部屋に上げてくれって言ってるわけじゃありません」

腕を組んでコソコソと顔を近づけて話すさまは、傍から見れば完全に恋人同士に見えないだろうか。

ならばこれでいいようにも思えるが。

でも、ひょっとして。

そんな期待が私を増長させていく。

「だったらどういうつもりで言ってんだ」

溜め息混じりにそう言った平嶋課長だが、不快感と言うよりも戸惑いの方が勝っている気がする。

これなら隠し事をせずにお願いすれば、納得してくれるんじゃないだろうか。

「後ろからついてきてるんです。私の悩みの種が」

「ああ……。そう言えば俺と久瀬の関係を事細かに聞いてきた女子社員がいたな。もしかしてあれが久瀬の言っていた……」

「そうです。私をこんなふうにした諸悪の根源です。それが後ろにいるんです。きっと何か掴むまで着いてきます」

勢いに押されているのか、ハッキリダメだと言えないところがつけ込みどころ。

「いや……だからって……」

「玄関まででいいですっ。玄関にさえ上げてくれたら、梨央が帰ったのを見計らって私も帰りますから」

「そうは言ってもなぁ」

「お願いしますっ。ここまで協力してくれたんですから、最後まで面倒見てくださいっ」

平嶋課長の腕を掴んでいる手に力を込めて、瞳を潤ませ上目遣いで助けを乞う。

そんな私を見て平島課長が下した決断は。

「…………玄関までだぞ?」

「はいっ」

……ほら、勝った。
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