ただいま冷徹上司を調・教・中!
平嶋課長の腕を取ったまま振り返ると、沙月さんと瑠衣ちゃんが今にも歓喜の叫びをあげそうなくらいの表情で私達を見ていた。

そしそさらに後ろには、驚きを隠しきれない梨央が私を見つめている。

数時間前までは平嶋課長との関係を疑ってかかっていたくせに、今のこの状況を見てあの女はどう思っているのだろう。

この後の私達の流れを、せいぜい指でも咥えて見に来ればいい。

着いてくるなら着いて来いとばかりに不敵に微笑んで梨央を挑発すると、私は再び平嶋課長と歩き出した。

「久瀬。わかってると思うが、これは不本意な選択だからな?」

「わかってますって。上がり込んだりしませんからご心配なく」

「わかってるならいいんだけどな」

……平嶋課長が隙を見せなければ……だけどね。

イケメン冷徹課長と言われている平嶋課長が、私の無理なお願いを渋々ながらでも聞いてくれる。

この快感はたまらないな。

浮かれる足取りを隠すかのように駅に向かっているさなか、平嶋課長はずっと黙って口をへの字に曲げている。

「平嶋課長、なんだかとっても不機嫌そうですね。……やっぱりこんなことお願いするなんて、いくらなんでも非常識ですよね。申し訳ありません」

自分のことばかりで浮かれていたが、やはり平嶋課長に頼むのは筋違いだった。

流れていた沈黙は、私の思考を冷静にし、そして自己嫌悪に陥った。

やっぱり平嶋課長の弱みをチラつかせて脅すような真似、してはいけなかったんだ。

そう思って平嶋課長に謝罪しようと思った時。

「不機嫌じゃない。久瀬の頼みもちゃんと考えて俺が了承したんだ。……そうじゃなくて……これ」

平嶋課長が左腕をクイっと軽く上げると、私の右手も一緒に持ち上がった。

「あ……」

そう、私はずっと平嶋課長と腕を組んで歩いていたのだ。
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