ただいま冷徹上司を調・教・中!
ぱっと手を離して再び歩き出す。

通常ならばその選択が正しいと思う。

けれど、今日の私は一味違うというかなんというか。

しばらく平嶋課長にうでに添えられたてを眺め、上目遣いに課長を見上げた。

「せっかくだし、このまま歩きましょうか?」

「は?」

「みんな見てますし、なんだか違和感なくないですか?」

「いや、あるだろう?」

そうかなぁ、ととぼけた顔をして見せて、私は平嶋課長の腕を軽く引っ張ると歩き出した。

平嶋課長も「仕方ないな」と小さく溜め息をついた。

駅に着いて切符を購入しているとき、電車を待っているとき、電車を降りて改札口をぬけたとき。

そっと後ろを振り向くと、ぶすっとふくれっ面の梨央がちゃんといた。

そうだそうだ、ちゃんと着いてこい。

視線に思いを込めて梨央と視線を合わせると、ちゃんと着いてきてるだろうが、と言わんばかりに睨み返された。

梨央に着いてこいと視線を送りながら、平嶋課長にはストーカーまがいなことをされていると言いながら家に入れてもらおうとする。

普通に考えたら恐ろしい女だ。

けれど今回梨央に平嶋課長の家に入ったところを見せつけたら、もう平嶋課長を強引に協力させるような真似はやめようと思っていた。

だから今日だけは。

平嶋課長には我慢していただこう。
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