ただいま冷徹上司を調・教・中!
「ここだ」

駅を出て大通りを渡り一本裏道に入るとすぐに平嶋課長の住むマンションはあった。

駅から徒歩五分といったところか。

役職者で営業成績もトップとなれば、なかなかの経済状況なのか、住んでいる場所もかなり良い。

8階建てで戸数も48戸と、そんなに多数ではないぶん戸と戸の間隔が広い。

かなりの広さがあると見た。

分譲なのか賃貸なのか、そこまで確認できるほど面の皮は厚く出来ていない。

しかし私が見てもそれなりの値段はするだろうということはわかる。

建物を見て、というよりも、ここまで来てしまったということに緊張が走る。

すでに離してしまっていた平嶋課長の腕にもう一度しがみつくのは恥ずかしい。

なのでジャケットの裾を軽く握った。

「やめとくか?」

意地悪な笑みでそう言った平嶋課長は、もう私が課長のテリトリーに入ることを覚悟してくれているようだった。

「ここまで来て、やめたりしません」

ふっと短く息を吐き、少しむくれた顔で平嶋課長の横に並ぶ。

その仕草が面白かったのか、平嶋課長は私から顔を逸らして吹き出した。

……平嶋課長でも吹き出して笑うんだ……。

「ほら」

そう言うと平嶋課長はなにを思ったのか、自分の腕を軽く持ち上げた。

「え?」

その仕草の意味を探っていると、「手」と平嶋課長は腕を組むように誘導してきた。

「改まると照れますね」

「それは言うな」

私達はお互いに苦笑いし合うと、腕を組んでオートロックのエントランスの中へと入っていった。
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