ただいま冷徹上司を調・教・中!
エレベーターのモーター音と私の心臓音が響いているこの密室で、私の頭の中はものすごいスピードでいろいろなことを処理し始める。

私がしてしまったことは間違いではなかっただろうか。

平嶋課長にとっては迷惑でしかないこの状況を、私は今後どうやって返していけばいいのだろう。

エレベーターが開くと、平嶋課長は私を軽く促して玄関へと歩いていく。

廊下から下に視線を向けると、暗くてもう梨央がいるかどうかもわからなかった。

鍵を取り出して玄関を大きく開くと、平嶋課長は私に向かって声をかけた。

「ようこそ」

平嶋課長よりも先に入れをもらうと、急にどうしていいか分からなくなってしまう。

「すみませんでした」

ついて出た言葉は、お邪魔しますよりも謝罪の言葉だった。

「私、間違ってました」

「いきなりどうした?」

玄関を閉めた平嶋課長は、突然の私の謝罪を呆気に取られた表情で見ている。

「こんなこと、平嶋課長に頼むべきじゃなかったんです。平嶋課長みたいな完璧な彼がいると見せしめれば、彼女は悔しがるだろうって……それだけを思ってこんなことしてしまいました」

その先のことを、私は一切考えていなかった。

「ついてくる彼女を挑発するかのように平嶋課長と腕を組んで、着いてくるなら勝手にどうぞと余裕の顔して見せてたけど、私とんでもないことをしてしまいました」

このあと、梨央がどうするかなんて、私はなにも……。

「平嶋課長の家までバラしちゃいました。彼女が押しかけてきたり、ストーキングし始めたり、いろいろ面倒なことがあるかもしれないのに、自分の面子のことばかりで、平嶋課長に対する配慮なんて微塵もなかった」

平嶋課長は私に対してたくさんの配慮をしてくれたというのに、私はなにもできなかった。

「本当に申し訳ありませんっ」

合わせる顔もない私は、深々と頭を下げて精一杯の謝罪をした。

「そんなことはわかってる。それを踏まえた上で了承した。俺が決めたと言っただろ?」

柔らかい声色で平嶋課長は私の肩にそっと触れ、頭をあげさせた。

「幸いここはオートロックだし、管理人だって常駐してる。防犯が万全だからこのマンションを選んだんだぞ。問題ないよ。玄関だってカメラは付いてるんだから確認すればいいだけだろ?」

口元を少しだけ上げて、平嶋課長は私を安心させるかのように笑った。
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