マインドトラベラー
【黒き雷光⑦前編 バラッド:少女の変化】
あまりに酷く傷つくと平和を得ても内心は
また壊される幻想がうずいて不安を掻き立てる。
再び彼女が苦しんでいるのも、彼女が心から
安心出来る場所がなく、あの苦しみの只中に
落ちる不安が拭えずにいるからである。彼女には
安住出来る場所はただ一つしか存在しない。
契約により今来てる「ここ」以外にはあり得ない。
「ここ」を喪う時が来る。彼女はそれがこわかった。
----
あのヒトだって、私だけの為に生きてるわけじゃない。
それは十分分かってる。それでも「ここ」にしがみつく。
そうしなければ、今度こそ自分は崩壊するだろう。
こみ上げてくる恐怖心。自分で克服するしかない。
それでも私が居る場所は「ここ」しかないと思うのだ。
何かを望むわけじゃない。そばに居られるだけでいい。
不意に何かが閃いた。方法が、ある。彼女は何かを決意する。
不思議と心も落ち着いて、未来に思いを向けられる。
−−−−
このとき黒き雷光が精神世界を訪れて
彼女も知らない深層の自我と対面していたが
彼女がそうと知る事はこの先決して無いだろう。
それがマインドトラベラー。表に出てくる事は無い。
----
彼女はもはや全くの別な所に焦点を
当てて行動する事を心に決めて燃えていた。
そもそもいじめの被害者になってこのかた、将来を
考えてみる事なんて、思いも寄らなかったのだ。
友人もなく、ただ一人、読書や芸術鑑賞で
時間を過ごす毎日に嫌気がさした事は無い。
むしろ人との関わりを持たない方が楽だった。
あの日、アイツに会うまでは。。。
他人が私に向けてくる視線がすべて邪魔だった。
蔑み、憐れみ、形だけ理解を示し親切を
装う者は数しれず。笑みを浮かべて寄ってくる。
彼らは私を見ていない。自分に酔ってるだけなのだ。
建前だけの綺麗事なんて目障りでしかない。
したり顔して同意する奴も信用できないし、
「寄り添い」、「絆」、口にする輩も信用しちゃ駄目だ。
いじめを仕掛けてくる奴も、見て見ぬフリをする奴も、
治療や癒やしの名目で、いいひとぶっている奴も、
こんなにたくさん努力して、自分がこの子を治したと
言いふらしたいだけなのだ。私にとっては敵なのだ。
いつしか私は完全に相手をするのをやめていた。
人事不能になっちゃえばあんな連中無視できる。
それの効果は抜群で、みな私から遠ざかり
近寄る者もなくなった。相手が何を話そうと
ぼおっと宙を見てるだけ。返事もしなきゃ関心を
示す事すらしなければ、大抵の人は諦めた。
それでお終い。私にはどうでもよい事でしかない。
親さえそれで退けて私は平和を楽しんだ。
私に優しかったのは孤独だけだと思ってた。
たったひとつの例外を除けば、今でも変わらない。
いつからだろう?
孤独に、別な感情を抱くようになったのは。
他のヤツ等はどうでもいい。いなけりゃいないで清々する。
でも、なぜかアイツについてはそれじゃダメ。
はじめてアイツに会ったとき、アイツは何もしなかった。
喋らないから、うるさくはなかったけれど、それでいて
何か落ち着く気がしてた。嫌いじゃないよ、あの感じ。
愛想もないし、ジジイだし。特別優しいわけでもない。
何かをくれた事もない。
それでも私は変わったよ。最初はツンケンしながらも
反応されると、嬉しくてついつい余計な事を言い、
気安くなっていったんだ。だけど、私は分かってる。
アイツが私の相手をするのは、仕事だからだよ。
それなら、ずっと契約を続けてしまえばいいじゃない?
だって
アイツと離れてしまったら、私は、ホントに今度こそ
ひとりぼっちになっちゃうよ。そんなの嫌に決まってる。
私がいつも一緒だとアイツは迷惑してるかな。
密会みたいなことをして、とうとう三年経っちゃった。
私は何も返せない。今後もずっとそうだろう。
それでも、今は縋るしかないのが今の私だよ。
いつかアイツと対等に向き合えたなら嬉しいな。
長生きしてね。お、じ、さん。
彼女は眠りに落ちてゆく。
あまりに酷く傷つくと平和を得ても内心は
また壊される幻想がうずいて不安を掻き立てる。
再び彼女が苦しんでいるのも、彼女が心から
安心出来る場所がなく、あの苦しみの只中に
落ちる不安が拭えずにいるからである。彼女には
安住出来る場所はただ一つしか存在しない。
契約により今来てる「ここ」以外にはあり得ない。
「ここ」を喪う時が来る。彼女はそれがこわかった。
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あのヒトだって、私だけの為に生きてるわけじゃない。
それは十分分かってる。それでも「ここ」にしがみつく。
そうしなければ、今度こそ自分は崩壊するだろう。
こみ上げてくる恐怖心。自分で克服するしかない。
それでも私が居る場所は「ここ」しかないと思うのだ。
何かを望むわけじゃない。そばに居られるだけでいい。
不意に何かが閃いた。方法が、ある。彼女は何かを決意する。
不思議と心も落ち着いて、未来に思いを向けられる。
−−−−
このとき黒き雷光が精神世界を訪れて
彼女も知らない深層の自我と対面していたが
彼女がそうと知る事はこの先決して無いだろう。
それがマインドトラベラー。表に出てくる事は無い。
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彼女はもはや全くの別な所に焦点を
当てて行動する事を心に決めて燃えていた。
そもそもいじめの被害者になってこのかた、将来を
考えてみる事なんて、思いも寄らなかったのだ。
友人もなく、ただ一人、読書や芸術鑑賞で
時間を過ごす毎日に嫌気がさした事は無い。
むしろ人との関わりを持たない方が楽だった。
あの日、アイツに会うまでは。。。
他人が私に向けてくる視線がすべて邪魔だった。
蔑み、憐れみ、形だけ理解を示し親切を
装う者は数しれず。笑みを浮かべて寄ってくる。
彼らは私を見ていない。自分に酔ってるだけなのだ。
建前だけの綺麗事なんて目障りでしかない。
したり顔して同意する奴も信用できないし、
「寄り添い」、「絆」、口にする輩も信用しちゃ駄目だ。
いじめを仕掛けてくる奴も、見て見ぬフリをする奴も、
治療や癒やしの名目で、いいひとぶっている奴も、
こんなにたくさん努力して、自分がこの子を治したと
言いふらしたいだけなのだ。私にとっては敵なのだ。
いつしか私は完全に相手をするのをやめていた。
人事不能になっちゃえばあんな連中無視できる。
それの効果は抜群で、みな私から遠ざかり
近寄る者もなくなった。相手が何を話そうと
ぼおっと宙を見てるだけ。返事もしなきゃ関心を
示す事すらしなければ、大抵の人は諦めた。
それでお終い。私にはどうでもよい事でしかない。
親さえそれで退けて私は平和を楽しんだ。
私に優しかったのは孤独だけだと思ってた。
たったひとつの例外を除けば、今でも変わらない。
いつからだろう?
孤独に、別な感情を抱くようになったのは。
他のヤツ等はどうでもいい。いなけりゃいないで清々する。
でも、なぜかアイツについてはそれじゃダメ。
はじめてアイツに会ったとき、アイツは何もしなかった。
喋らないから、うるさくはなかったけれど、それでいて
何か落ち着く気がしてた。嫌いじゃないよ、あの感じ。
愛想もないし、ジジイだし。特別優しいわけでもない。
何かをくれた事もない。
それでも私は変わったよ。最初はツンケンしながらも
反応されると、嬉しくてついつい余計な事を言い、
気安くなっていったんだ。だけど、私は分かってる。
アイツが私の相手をするのは、仕事だからだよ。
それなら、ずっと契約を続けてしまえばいいじゃない?
だって
アイツと離れてしまったら、私は、ホントに今度こそ
ひとりぼっちになっちゃうよ。そんなの嫌に決まってる。
私がいつも一緒だとアイツは迷惑してるかな。
密会みたいなことをして、とうとう三年経っちゃった。
私は何も返せない。今後もずっとそうだろう。
それでも、今は縋るしかないのが今の私だよ。
いつかアイツと対等に向き合えたなら嬉しいな。
長生きしてね。お、じ、さん。
彼女は眠りに落ちてゆく。