戦国恋武
「………め様〜、濃姫様〜〜〜!」
誰かの呼び声と共に廊下をバタバタと走る複数の足音によって、再び意識が戻ってくる。先程の男女とはまた違う人物の声のようだ。
どうやら死に損なってしまったのかもしれない。布団の感触があり、誰かが私の手を握っているのが感じられる。先程と違い、瞼の重みも感じられない為、ゆっくりと目を開ける…
「濃姫様!失礼仕ります。」
その声と共に部屋に数人が入ってきた。
まだ状況が飲み込めていない私は、とっさに開きかけていた瞼を閉じる。それと同時に、私の手を握っていた誰かの手に優しくキュッと力が込められたかと思うと、そっと温もりが離れていった。
「殿がっ…「あぁ〜っ!信長様ぁ〜!!」
誰かが話しだそうとした声を遮って、違う誰かがこちらに近付いて来る気配がする。
「待て。」
凛とした女性の声で、近付く気配がピタッと止まる。
「殿は大層お疲れである。今しがた床に入られたばかりじゃ。それ以上近付くと、寝込みを襲われたと思われた殿に、叩き斬られるかもしれぬぞ?」
また女性の声がして、一瞬でその場にいた全員が冷えた空気に包まれた。
「ら、蘭丸、さ、下がりなさい。」
「…はい。」
また違う誰かの声により、近くまで来ていた蘭丸と思われる気配が遠ざかっていった。
「せっ、倅の無礼な振る舞い、誠に…誠に申し訳なく、ここは、も、森家当主であるこの森可成が、せ、切腹にてお詫び申し上げまスル~!」