真夜中だけは、別の顔
不思議に思う。
あの晴太の性格からして、もし何かしら記憶があるのだとしたら「起きたらブッキーの部屋でビックリしたわー!!」……などと驚きつつも、笑いを混ぜながら自ら話題に触れて来そうなもの。
それをしてこないということは、本当に何も覚えていないと考える方が自然なのかもしれない。
この半年の間に、同じことが何度かあった。
それには条件があると気づいたのはここ数カ月。晴太が伊吹のベッドにもぐりこんで来る時、その程度はまちまちだが、必ず酒に酔っているという事。
晴太は、そもそも酒が強いほうではない。外で友人や彼氏と飲んで来ることはあっても、家で飲むことはほとんどない。一緒に生活をしていれば、当然一緒に食事を取ることもある。伊吹に付き合い飲むことだってある。けれど記憶を失くすほど飲むなどということはごくごく稀《まれ》だ。
一度きりなら、「偶然」で済ますことができる。
できる、というよりそう信じて疑いもしない。
けれど、晴太がああいう行動を起こしたのは最早《もはや》一度や二度ではない。
すべてを晴太に話して、問いただせばいいのかもしれない。けれどそれが出来ないでいるのは、伊吹の中にほんの少しの疚《やま》しさがあるから。
「……はぁあ」
晴太がゲイだと知っていて。愛する恋人がいるのも、二人が想い合っているのも知っていて。
忘れてたはずの“好意“がひょっこりと胸の中で疼《うず》く。
ほんの時々。真夜中背中に与えられる温もり。
それを手放したくない──、このまま続けばいい。もっと言えばその手が少しでも自分を求めてくれることを心の片隅で期待している。
“トモダチ”で良かったはずだった。
なのに私は、この先に見えそうで見えない何かに惑わされている。