浅葱色が愛した嘘




総司にはこの先、まだ長い人生がある。


大丈夫。
私じゃなくてもいいんだ。



それは桔梗の精一杯、彼を思った気持ちでもあった。





しかし、沖田は何も言わない。


背中を向けられているため、その表情すらも分からなかった。






ガバッ



突然、沖田は振り返ったと思えば桔梗をきつく抱きしめた。





『………総司?』






『うるさい。

何がさよならだ。ふざけてるの?

そんな事で僕が君を嫌いになると思う?

言っただろ?もう離さないって。』





沖田の心は最初から決まっていた。


桔梗が例え何であろうとも、
沖田の心が変わる事はない。





『過去の事…知らなくてごめん。』



沖田は謝罪の言葉を口にした。


あまりにも惨い桔梗の過去。

仲間を目の前で何人も殺された沖田にとってその痛みはわかる。



しかし、今まで
沖田にとっての居場所は土方や近藤。


その二人を亡くしたらきっと自分も気が狂うだろうと、理解していた。




『桔梗の居場所は僕だ。

復讐をやめろとは言わない。
ただ、復讐が終わったら、
君はただの女になればいい。

僕と共ににずっと生きよう。』




それは沖田の覚悟の現れだった。




『本当にいいのか?

人間の血など流れていないのだぞ?』





『例え生き物は違えど、

僕が愛したのは今の桔梗自身だ。』





沖田の気持ちを疑う事などなかった。


その真っ直ぐな黒真珠は

桔梗そのものを映していたから。

そこには化け物でもなんでもない。
綺麗な涙を流す女がそこにはいた。



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