浅葱色が愛した嘘
肉を斬った感触はない。
ヒラヒラと着物の布だけが宙を舞っている。
『ちっ、』
『いい動きをだな。
しかし、所詮は人間。
敵わないと分かっていながら、なぜお前は刃を向ける?』
敵わない相手……
それはまだ分からない。
『侍が刃を向けるのに理由なんかいらない。
そこに守りたいものがあるなら刀を抜けばいい。それだけだ。』
『守りたいもの___。
それは桔梗の事か』
声はやがて近くなり沖田の頭上から聞こえた。
バッと上を見上げれば………
赤い瞳と視線がぶつかった。
癖のある茶色い髪。
紫色の着物。
煙管をふかし、あざ笑うかのように沖田を見下ろしている。
『桔梗に伝えろ。
迎えにきた。と……
本来、お前が有るべき場所は戦場だと…
満月の夜、
千年桜に来い…と。』
男は不気味な笑みをこぼしたかと思えば、そのまま沖田に斬りかかった。