浅葱色が愛した嘘






その後、土方はすぐ屯所に戻ってきた。



未だ、夜空には赤く輝く満月。


その美しさは異常なほど。



そして副長室には山崎の姿もあった。





『今…なんて…?


土方さん…澄朔に会ったんか?』



土方は新撰組に戻るなり、山崎にその事を伝えた。



監察方の山崎を土方はどこまでも信用していたから。



新撰組の内部の状況を山崎はほとんど把握している。





『あぁ、会ってきたよ。


三年前とは何も変わっちゃいねぇ。』




土方は煙管に火をつけると、満月に向かってその煙をふかす。



普段は鋭い刃のような切れ目は
今は何かを慈しみ、惜しむような目をしていた。




『それで…あいつは何を言ってたんや?』





『総司に会わせてほしい、だってよ。



桔梗も怖いんだ。

本当は自分が化け物に近づいてると知った瞬間から、見えない何かに怯えて生きてきたんだと思うぜ?

生桜が居たからあいつは意地でも妖の血に負けなかった。』





『生桜……?』





『総司と桔梗の子どもの名だ。』



土方は山崎と目を合わせる事なく、

ただ満月を眺めていた。







なんや…土方さん。

あんたも相当なお人好しやで?
今でも惚れとるんやろ?

何が鬼の副長や。

新撰組にとって最後の砦であり、
新撰組にとっての最大の剣。

ほんまは皆知っている。

この人がどんなに仲間思いで、どんなに心温かい人か。




だから新撰組はここまで力をつけたんや。




山崎は何も言う事が出来なかった。


何かを守る事が出来る人間は、
何がを捨てる事の出来る人間。




土方はきっと多くのものを捨ててきたのだろうと、悟った。



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