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おまけに、見た目も良い。鈴森涼磨という涼しげな名前の通りの、冷涼な美貌。奥二重のすっきりとした眼差しと、陶器のような白い肌は、伝統芸能一家を彷彿させるような和製的な美だ。まっすぐと通ったしっかりした眉と、黒々とした髪、張り出した肩幅が男らしさをかもし出している。

けれど、どこかのんびりとした社風のうちの会社には似合わない辣腕ぶりと容赦ない采配に、社内の女性陣からの人気は、それほど高くない。那央もそうだが、特に事務職の女性は、毎日決まったことを穏やかにこなしたいという人が多いのだ。

一方、男性陣は、優秀な後継者が来たことを喜んでいるようだ。

千帆自身は、涼磨のことをどうとも思っていない。職場の上司にあたるのだから、好き嫌いの感情は持たない方が、仕事がうまくいくと思っている。

そもそも、あまりあれこれ好き嫌いを判断しない性格なのだ。

それでも、涼磨は客観的に見て、誠実で仕事ぶりの良い人だと思うし、生まれつきの見た目ももちろんだが、身につけているものも品が良いと思う。

この人が紹介してくれるなら、おかしな人ではないだろう。涼磨の仕事に対する厳しい態度に辟易している那央ですら、同じ意見だった。

要は、真面目で、裏表のなさそうな人なのだ。

緊張でほとんど口がきけない千帆を乗せて、車はスムーズに夜の東京を走る。

涼磨の傍にいるとき、千帆はいつも緊張してしまう。

普段社長や会長にはお目にかからない千帆にとって、涼磨は会社で出会う一番立場が上の人だったし、整った容貌を向けられると、それだけで顔を隠したくなる有り様だ。
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