誓約の成約要件は機密事項です
料理は、事前に頼んでくれていたようで、ドリンクのあと、先付が運ばれてきた。二人分だ。

先に食べ始めていていいということなのだろうか。

ためらいながらも、涼磨に促されて口をつける。

――おいしいっ!

こんなに美味しいのなら、たまにはこんなところで食事をしてみたいという気持ちも分からないでもない。一度知ってしまった贅沢を忘れるのは、大変だろう。

経済状態と照らし合わせて、贅沢の度合いと頻度を冷静に判断できるのであれば、時たまのご褒美はありと、早速だが条件を塗り替えざるをえない。

あまりのおいしさに、無言で料理を堪能していると、お凌ぎ、お椀と続けて料理が運ばれてきてしまい、そこではたと我に返った。

「あの……副社長」

こちらもほとんど無言で食事をしていた涼磨が、居住まいを正した千帆を見て、箸を置いた。

「口に合わないか」

「いえ、とんでもなくおいしいです」

「とんでもなく……」

「はい、いえ、そういうことではなくてですね。ご紹介してくださる方というのは、いついらっしゃるんでしょう」

とんでもなく……と口の中で繰り返していた涼磨は、それを聞いて無表情に戻った。

それ以前も、大した表情なんてなかったのだが、面白くなさそうに、突然押し黙ってしまったのだ。

「……」

「……」

無言が続く。
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