誓約の成約要件は機密事項です
アルコールを採っていない涼磨は、仕事をしているときと全く態度が変わらない。

いつも姿勢をピンと伸ばして、無駄口を叩かない。見上げる高さから放たれるまっすぐな視線は、ときどき千帆をいたたまれなくさせるのだ。

会話がないことを忘れるくらいおいしい料理だったが、それがなくなってしまえば、沈黙ばかりが耳につく。

しかも、なぜだか怒られているような重苦しい空気を押し付けられていては、なおさらだ。

けれど、聞くのが遅すぎるくらいのことを聞いて、なぜ責められているのだろうか。

「失礼いたします。こちら、お下げいたしますね」

「あ、はい。お願いします」

女将と思われるお店の人が来た。和やかな笑顔につられて微笑んで、この数十分で頬がずいぶん硬くなってしまっていたことに気づかされる。

「お味は、いかがでしたでしょうか」

「美味しかったです」

「ありがとうございます」

会釈して下がろうとした女将に、涼磨がボソッと漏らした。

「“とんでもなく”うまかったそうだ」

「まあ! ありがとうございます。大将に伝えさせていただきますね。喜びますわ」

「ちょ……副社長っ!」

慌てる千帆と、少しだけ負のオーラを和らげた涼磨を置いて、女将は優雅に礼をして出て行ってしまった。

「……それで、あの……ご紹介してくださる方というのは……」

こうなったら、開き直るしかないと、千帆は話を元に戻す。

「ああ、それは……」

いつも視線で刺してくる涼磨が、気まずげに横を向く。
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