誓約の成約要件は機密事項です
「……もう来ている」

「え?」

辺りを見渡しても、女将の出て行った個室には二人きりだ。部屋の外で、待ってもらっているのだろうか。

障子の向こうに神経を集中させる千帆に、涼磨は肩を落とした。

「……僕だ」

「はい?」

決して馬鹿にした物言いをしたつもりはない。丁寧に聞き返したつもりだ。

純粋に、聞き間違えたのだと思ったのだ。

「僕だ、と言ったんだ」

「ええと……どういう意味でしょう?」

慎重に聞き返す。

耳の調子が悪いのかもしれない。慣れない高級店の個室で、慣れない涼磨と向かい合わせでいるせいか、頭の回転も鈍い気がする。

「僕が、君の相手になる」

「え……えぇ!? 副社長ご自身がですか?」

「ああ。不満か」

「い……いえ、滅相もございません……」

千帆は、冷や汗が出た気がして、こめかみに甲を当てた。

―― え。自分だって言った?
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