誓約の成約要件は機密事項です
見合いや交際のマナーについて読み漁ったネット記事では、初回が休日なら、昼間に会うことを薦めるものが多かった。

涼磨との初回の“面談”は、夜だったが、あれは数に入れなくてもいいだろう。なにせ、こちらはそういう要件だとは思いもしなかったのだ。

あのときのような高級店に連れて行かれても気まずいので、食事ではなくティータイムの提案だ。仮に高級ラウンジに連れて行かれたとしても、食事に比べればリーズナブルだろう。

「紅茶が好きなのか」

「いえ、特にそういうわけでは。コーヒーも緑茶も好きですし」

涼磨の視線が、千帆の両手に包まれたマグカップに向く。

ティーバッグで淹れた紅茶は、香りが薄く、苦味ばかりが舌に残る。

「では、明日」

そう言って立ち去った涼磨の背を、無言で見送り、紅茶を啜る。

これよりは、美味しい紅茶が飲めるだろうか。



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