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初デート

翌日、涼磨は自分の車で迎えにやって来た。待ち合わせは、初めて食事した日に、タクシーから降ろしてもらった、自宅近くのコンビニの駐車場だ。

わざわざ運転席から降りてきた涼磨を見て、千帆は所在無く視線を彷徨わせる。

スーツでない涼磨を見るのは、初めてだった。普段隙のない着こなしをしている涼磨が、柔らかなオフホワイトのニットを着ている意外性が、落ち着かない気持ちにさせる。モノトーンのベーシックなファッションは、気取りも力みもなく、涼磨によく似合っていた。

スタイルが良い人は、何を着てもさまになるものだと感心する一方で、平凡な自分が平凡な洋服を着て並んでも良いものだろうかと、千帆は恥ずかしく感じる。

とはいえ、今更どうにかなるものではない。那央と店員が見立ててくれたワンピースの中の1着だから、二人を信じるしかない。

ワンピース姿を見せるのが、見合い相手ではなく、涼磨が最初になってしまったが、他に適当な服もないので仕方ないと自分を納得させていた。

「こんにちは。今日は、よろしくお願いいたします」

「ああ」

涼磨が、助手席のドアを開けて、千帆を促す。もう逃げられない。

覚悟を決めてコートを脱ぐと、涼磨の視線がサッと千帆の全身を舐めた。さすがにコートまでは新調できなかったので、会社にも着ていったことのあるチェスターコートだ。

――もう帰りたい。

コートの中は、今まで着たことのなかったニットワンピース。上下で切り替えしがあるため、一見セットアップのようだ。程よく体にフィットする柔らかなデザインだが、男の視線をろくに感じたこともない千帆には、何もかもが恥ずかしくて堪らない。思春期真っ只中の中学時代に男子と話していたときでさえ、これほど恥ずかしくはなかったんじゃないかと思う。
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