誓約の成約要件は機密事項です
顔を見合わせた二人は、恐る恐る振り返って、顔を強張らせる。180cm超の長身から、突き刺すような視線が注がれていた。

「……副社長っ!」

二人そろって、青ざめて叫び声を上げ、慌てて頭を下げる。

「も、申し訳ございません。私語は慎んで、仕事に集中しますので!」

「そうしてくれたまえ」

いかめしい言葉づかいが、なぜか似合う彼は、鈴森涼磨。この会社の副社長だ。

会長、社長に継ぐ、ナンバー3。仕事をさぼっていたと思われたら、えらいことだ。

冷めた目で千帆たちを睥睨しながら、涼磨は資料室の中へ入ってきた。重たい音を立てて、ドアが閉まる。

「……ああ、その前に」

「はい」

整然と並べられた、胸の高さまでのキャビネットを挟んで、涼磨は千帆の向かいで足を止めた。

何か仕事を頼まれるのだろうかと、手を止めて姿勢を正した千帆を、涼磨は感情の見えない瞳で見下ろす。

「今の件、僕も君に提案していいだろうか」

「今の件……って、もしかして、婚活のことですかっ!?」

――聞かれてた……!

羞恥に一瞬で頭に血が上る。上司に聞かれて、楽しい話ではない。ましてや、最強寒波のようにクールな副社長に!
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