誓約の成約要件は機密事項です
涼磨とは、仕事で多少の関わりがあるが、プライベートな話をしたことなんてない。業務連絡のみだ。

そんな薄い関係の涼磨に、婚活話を聞かれた挙句に、話に入られるなんてと千帆はパニックになった。ただでさえ話下手だから、咄嗟に言葉も出ない。那央には、実際に頼んでいたところだったし、他の人にもおいおい話して協力を得ようと思っていたが、まだまだ人に言いふらす心の準備はできていなかったのだ。

あたふたしていると、那央が助け舟を出してくれた。

「もしかして副社長、どなたか紹介してくださるんですか?」

「ああ」

「わ! すごい! 副社長のお知り合いなら、間違いないですね」

那央の声が弾む。現金な話だが、涼磨の知り合いなら、好条件も夢ではないだろう。

なにせ涼磨は、高学歴、高収入、高身長、高“顔偏差値”。年齢は、たしか31歳。同族経営で現在副社長だから、ゆくゆくはこの会社を継ぐことが確定事項だ。

小学校から大学まで、有名な私立校に通っていたらしい。この会社に2年前に入社するまでは、財閥系の総合商社に勤めていた。交友関係には、多いに期待できる。

「どうしたらいい? 釣書が必要か?」

「そんなの後でいいわよね? ご飯でもお茶でも、というか連絡先さえあれば!」

千帆より早く事態を把握した那央が、一気に畳み掛ける。このチャンスは逃せないと躍起になっているのは、那央のようだ。

「そんな……私より、那央さんの方が……」

ようやく口を開いた千帆は、先輩の那央を立てる。

すると、那央は遠慮なく顔を顰めた。
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