誓約の成約要件は機密事項です
溜め息を隠すようにして、紅茶を一口飲む。建物は立派なカフェだったが、紅茶は薄かった。

――昨日が良すぎたんだ。

紅茶専門店と比べてはいけないだろうと、気を取り直す。

チラッと腕時計を確認したが、顔を合わせてからまだ、せいぜい10分くらいしか経っていないだろう。何とか会話をつながなければ、お互いの人となりが分かるはずもない。

野々村から伝わるビリビリとした空気に圧倒されながらも、千帆は何度も率先して口を開いた。

しかし、会話は二三往復すれば良いほうで、どんな話題も尻すぼみになってしまう。一人で話してみても、聞いているのだか聞いていないのだか分からない薄い反応しかない。

千帆は、早々に結論付けた。

原因は分からないが、失敗したのだ。野々村は、千帆を気に入らなかったということで、間違いないだろう。

待ち合わせまで一番早く漕ぎ着けた人物だし、メッセージのやり取りでもコミュニケーションに何ら問題を感じなかったから、期待しすぎてしまった。どの時点で見限られたのか分からないが、もしかしたら顔を見た瞬間にでも、野々村のテストには落ちてしまったのだろう。

元々一人で話せるタイプでもない千帆は、三十分も経たないうちに根を上げそうになった。

けれど、最初のデートの目安は、最低でも二時間程度と聞いている。もちろん、気が合えば、それ以上何時間でもと。

いくらなんでも三十分は短すぎるだろうと、何とか粘っても一時間だった。頭の中は、いつ別れを切り出そうかとばかり考えている。
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