誓約の成約要件は機密事項です
「……ご連絡します」

すっかり混乱した千帆は、頭を下げるとそそくさとその場を後にした。

何がなんだか分からない。

野々村は、千帆を嫌っていたわけではないのか。もう一度会っても良い程度には、気に入ったということなのか。

あんな態度なのに?

――無理。

千帆の方が、受け入れられそうにない。野々村には、千帆と会話しようという姿勢が、全く感じられなかった。あんな時間は、二度とごめんだ。

家に帰ると、野々村からメッセージが届いた。

今日は楽しかった、千帆のことをもっと知りたい、またぜひ会いたいというような内容が、長々と書いてある。

本当にこう思っているのだろうか。

とりあえず、繋いでおけそうな相手と思われているだけ?

それにしても、会っていたときの姿勢とメッセージとの乖離が大きすぎる。

さっさと断りを入れるつもりだったが、分からなくなってしまった。

でも、初対面で、すらすらと話せるような人だったら、そもそも結婚相談所に入会していないかもしれない。野々村も、まだ若い。それで入会するということは、人付き合いがうまい方ではないのかもしれない。千帆だって、同じだ。

それに、さっさと断ってしまって、後で惜しくなったりしないだろうか。
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